『インターンで職場体験した中小企業に就職を決めました!』
文系の四年生大学を卒業し、今は八王子市にある中小企業の、株式会社ナラハラオートテクニカルに勤めて5年目の清水さんと、社長の内野さんにお話を伺いました。
【なぜ?】文系女子大生の清水さんが、八王子市の街工場へインターンに行くことになった経緯を内野さんに質問したところ「最初はインターン生なんか来ても会社には何のメリットもない…」と思っており、インターンの受け入れには消極的だったと言います。ですが、知り合いに頼まれて「仕方なく…」始めたインターンだったが、まず面接に来たのが文系の女子大生…。第一印象は「ないな…」と思ったそうです。ですが、面接の中で彼女の『やります!』という思いに押されて「女、子供に自分の仕事ができるわけないだろう」と言うプライドがありながらもインターン生を受け入れました。その時の清水さんは「会社の中に入ってみないと何もわからないから…とにかくやってみよう!」こんな気持ちで面接を受けたと言う。自分の親も中小企業で働いていた清水さんは、小さい頃に会社に連れて行ってもらった記憶もあり「こういう温かい感じの会社に就職するのも良いなぁ…」と言う漠然としたものもあったと言う。
【インターン期間】7月中旬にスタートして、10月に行われる展示会までの期間。展示会をゴールと設定して、会社のアピールができるようにインターンのプログラムを考えたそうです。まずは会社のことを知ってもらう為に、工場での作業ではなく、外注先などの外回りに同行をさせて『多くの人たちと繋がって会社は出来ているんだ』と言う事をわかって貰ったと言う。町工場と言うと多くの一般の人は「工場にこもって朝から夜まで同じ仕事をしている…」と思っている。実際に清水さんも「工場と言うとライン作業のような1つの作業を黙々とやるもの…」と同じように思っていたそうです。現状は、外回りなどの仕事も多いし、多品種化が進んでいるので毎日同じ仕事ばかりではないと言う。
インターンが進み、実際に清水さんが工場に入った時、社長の内野さんから「これやってみるか?」の問い掛けに、躊躇なく工場の仕事を始めた清水さんを見て、内野さんはビックリしたと言う。「直径1mm長さ5mmのバネを、特殊なピンセットを使って作業をするのだが、それを300個やらなければいけない。我々でも大変な作業を、清水さんは正確に黙々とこなしたから…」と言う。我々でも15分作業すると休憩を必要とするのに、清水さんはスピードこそ遅かったが、しっかりとこなして見せたという。
このような体験から内野社長は、このようにいろんな事ができるのがインターンのメリットと話してくれました。「会社はお金を稼がなければいけない。特に中小企業は、会社の案内や〈見せるだけ〉と言う事に時間を割く事が実質難しい。ですが、インターンだと給料が発生しないので、会社のことをいろんな方面から教えていく事ができる」とメリットを教えてくれました。
【大学卒業】清水さんがインターンを体験したのは三年生。その後、内野社長から「時間がある時にアルバイトに来ないか?」と言う誘いもあり、たまにアルバイトには行っていたが、すぐ就職を考えたわけではなく、就職活動中はいくつかの企業を廻ったと言います。ですが、時代は就職氷河期、なかなか内定が取れずにいた頃、内野社長から「良かったらウチに来ないか?3年やれば、どこでも通用するようにしてやれるぞ!」という一言もあり、大学四年の卒業前に、中小企業の株式会社ナラハラオートテクニカルに就職を決めたそうです。その時の清水さんの心境は、社長の『どこでも通用するようにしてやるぞ!』の言葉に『お願いします』と言う気持ちになったそうです。会社の大きさではなく、本当に技術力のある事がわかっていたからこその、言葉の重みだったのではないかと思いました。
【最後に】大企業には安心や安定があると思います。ですが、中小企業には、大企業にない仕事の『面白さ』や『やりがい』そして何より『高い技術力』がある事を知って頂きたい。『100年ライフ時代』と言われる昨今、『面白さ』や『やりがい』で会社を決めても良いのではないか⁉と思います。中小企業ならではの発見は非常に多くの物がありますので、ぜひインターン制度を活用してほしい。そして最後に、学生の皆さんには、『将来の為』多くの物を見て、多くの事を知って頂きたいと思うばかりです。
【番外編】
突撃、ものづくり⽂系⼥⼦
本誌を発⾏するにあたって、学⽣にも親しみやすく、就職活動にも何らかのプラスになる様な記事を載せよう、と⾔うことで、インターンから⼋王⼦の中⼩企業への就職を⾏った例がないか聞き取りをしてみると、何とインターンで⼥⼦を取った製造業があるらしい。
しかもインターン当時、彼⼥は⽂系⼥⼦⼤⽣で、全くの畑違い。
⼀体どんな経緯でそんな事になったのか、取材すべく、我々HFA 広報委員はかの企業、(株)ナラハラオートテクニカルへと向かった。
会社の⼊り⼝を⼊ると⼤型の⽔槽が⾒える。従業員8 ⼈と⼤きな会社ではないが、製造業とは思えないオシャレな⼯場だ。その奥に⼯作機械(マシニングセ
ンタ)が並んでいた。⼯場に⽔槽があるのにも驚きだが、熱帯⿂の泳ぐその先では、無⾻な⼤型の機械に似つかわしくない⼩柄で物静な雰囲気の⼥性が機械の操作盤を巧みに操作して、バリバリとアルミを削っていた。
彼⼥こそが噂の⽂系⼥⼦、清⽔さんである。
彼⼥とナラハラオートテクニカルが出会ったのは「ものづくり留学」という⼋王⼦市がTAMA 協会に委託して⾏っているインターンシップ制度(現在は終
了)。
元々、中⼩企業に興味があったという清⽔さん。お⽗様が中⼩企業で働かれていて、⼩さい頃、週末の会社に連れて⾏って貰っていたりした経験から、中⼩企業に親しみを持っていたという。
⼀⽅、飲み会の席でTAMA 協会の⽅にお願いされて、ほろ酔い気分でうっかり受け⼊れを決めたという、ナラハラオートテクニカルの内野社⻑。製造業に来る学⽣なので、てっきり⼯業系の男⼦かと思っていたら、⽂系の⼥⼦が来るという事を聞いてビックリしたと、当時を思い返して語ってくれた。
当時会社には男性しかおらず、若い⼥性に務まるのだろうか、⾃社で受け⼊れが出来るだろうかと疑問にも思ったという。
インターンシップの⾯接での第⼀印象はものしずかな⼦。あまり会話も弾まなかったそうだが、何か覚悟を決めて来ているという雰囲気を感じたそうである。
彼⼥にも確認してみると、この会社でインターンシップをやるぞという決⼼で⾯接に挑んだらしい。話していて感じたが、もの静かではあるが、きっと芯の強い⼥性なのだろう。
インターン期間は4ヶ⽉間。
夏休み間は週に3 ⽇、講義のある間は週1 で9 時から18 時まで。社員と肩を並べて働いた。内野社⻑はインターンシップの最終的なゴールを展⽰会で⾃社の
PR をして貰う事に設定したという。
まずは仕事をして貰う事より、⾃社の事、ものづくりの業界の事を知って貰おうと、お客さんへの外回りには積極的に彼⼥を連れていった。⼩さい企業ではやれる事に限界がある。⼀つの製品を作り上げるのにも、⾃社だけではなく、多くの中⼩企業が連携して、それぞれの会社の得意分野で協⼒を⾏いながら、ものづくりを⾏っているという事を知って貰いたかったと語ってくれた。
清⽔さんはインターンに来るまでは、中⼩企業の⼯場というとライン作業の様なイメージで、同じ作業の繰り返しを想像していたそうである。しかし実際は
全く違って、製品の中の1 つの事をやるのではなく、完成までの1 から10 までに携わる事が出来ると話してくれた。中⼩企業ならではの、そう⾔った部分に魅⼒とやりがいを感じたという。
彼⼥は現場作業にも前向きな姿勢で取り組んでくれたと、嬉しそうに内野社⻑が話してくれた。製造現場にはどうしても怪我のリスクがあるので、万が⼀の
時にはご両親に⼟下座も辞さない覚悟だったという。
⽂系という事で最初は出来るかどうか半信半疑であったが、教えた事はキチンとこなせるし、センスも良い。内野社⻑が苦⼿とする作業も黙々とこなす集中
⼒を発揮する場⾯もあった程だという。
インターンが終わり、⽬標の展⽰会では喋るのが得意ではなかった清⽔さんが、⼀⽣懸命、⾃社の説明をしてくれたそうである。
その後も彼⼥はアルバイトとして会社に残り、⾃由になる時間を使って働く傍、就職活動にも励んだ。
しかし、当時は就職難であったこともあり、なかなか結果に繋がらない⽇々が続いた。そんな中、参加した会社の新年会で、内野社⻑に「うちで三年働けばどこでも通⽤する様になれる」と声をかけて貰った。その時はすぐに返事は出来なかったが、受⼊れて貰える事に安⼼感を持ったという。
内野社⻑も彼⼥に会社に来て欲しい気持ちはあったが、当時は⾃社や⾃分に⾃信が無かった為に強くは⾔え無かったところもあったそうだ。
そして彼⼥は内野社⻑の誘いに乗り、春にはナラハラオートテクニカルに⼊社した。それから数年が経ち、成⻑した彼⼥は会社の主⼒として活躍してくれているそうである。
そんな清⽔さんに中⼩企業に⼊って良かった点を伺った。
まず⼟⽇祝⽇が休みな事。そして⾊々な事がやれている事だと話してくれた。
ナラハラオートテクニカルは町⼯場としては珍しくiPhone ケース等の⾃社製品を持っている。そのインターネット通販のサイト運営は彼⼥が任されてい
るそうだ。対企業とは違って、直接お客様に商品を届けられるというのも、とてもやりがいのある仕事だと、素敵な笑顔で話してくれた。
先⽇も代官⼭で⾏われた「⼯場マルシェ」というイベントに参加して、彼⼥⾃⾝の⼿で⾃社製品の販売を⾏って来たそうだ。
難しい製品の加⼯が上⼿く出来た時はとても喜びを感じるそうである。今後は技術をより磨いて、仕事をもっと早く出来る様にしたい、そう話す彼⼥は⽴派な職⼈の顔だった。
忙しくなると、任されているEC サイトの更新が滞ってしまうので、社内で上⼿く分業して、サイトを発展させていきたいという展望も語ってくれた。それにはコミュニケーションが課題だそうである。
今後は本業の加⼯の技術を更に磨いて、より短時間で中⼩企業と学⽣とはお互い未知な故のすれ違いがあるのかもしれない。
会社を変え、⼈を変える事が出来る。そんなところも中⼩企業の魅⼒なのだと。